【タジキスタン】世界の屋根と自転車素人#02 「到着前の語り」

 

(前回↑の続き)

 

不意に目を覚ますと、飛行機はひたすらに乾燥した山々の上を行っていた。窓からの景色はあまりに変化しないので、飛行機がどれほど進んだのかは見当も付かずに僕はまた眠ってしまった。

 

言わせていただくと、

ところで、タジキスタンと聞いてあなたは何を思い浮かべるだろうか。この旅を計画するにあたって僕はこのことについて考えてみた。

 

・・・何も思い浮かばなかった。

強いて挙げるなら、サッカーW杯の予選で日本に8―0で負けていたのを思い出したぐらいだ。かといってタジキスタンについて調べ始めたところで、この状態はそれほど変わらなかった。なにしろ情報が少ない。あの「地球の歩き方」でタジキスタンが取り扱われているのはわずか3ページで、ネット上の旅行情報も少ない。情報があったとしても、それは百戦錬磨の玄人バックパッカーと海千山千の玄人チャリダーのブログばかり。正直、参考にならない、できない、したくない。

更に言わせていただくと、そんな経験豊富な彼らのブログですら口を揃えて「タジキスタンは面倒臭いのに、見どころが無い」と言うもんだからタジキスタンに対する心証はこの時点でかなり悪かった。 

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【タジキスタン】世界の屋根と自転車素人#01「名残を残す」

朝の7時である。機体は旅客を満載し、砂交じりで霞んだ空を進む。多くを漢字と漢民族に占められた機内に中央アジアの情緒はほとんど無いけれど、僕の右隣に座る中年の女性の目鼻立ちにははっきりと強弱があり、そして、極彩色のひときわ目立つ民族衣装を着ている。異文化に行くんだ、と思った。一方で、左隣に座る相棒、海老名クンは座席に深く腰掛けて舟を漕ぎ、僕と同じメリハリのない顔をゆらゆら上下に揺らす。徒労感が否めない。しかし、かくいう僕も疲労困憊だった。

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岐阜から東京まで歩いた話02

 

(前回↑の続き)

 

豊橋から浜松

午後四時前。「さわやか」浜松高塚店。閑散とした店内。

 

ただ「げんこつハンバーグ」を思い続けて一時間歩いた或る男の目前に「げんこつハンバーグ」が置かれます。目の前で店員さんによって切られ、押し焼かれ、音を立て、肉汁を撥ねさせる「げんこつハンバーグ」。僕は「肉汁のはねが治まるまでお持ち下さい。」と店員さんに促されるまま肉汁が自分にかからないように紙マットの端を持ち上げてただ待つのみです。ようやくハネも落ち着いていざ、ついに、ようやく、やっと、「げんこつハンバーグ」を食べます!!!!

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烏魯木斉の映画館で「万引き家族」を観る(ウルムチ・後編)

 

烏魯木斉でやったことと言えばこれに尽きる。

万引き家族」といえば是枝裕和監督作品でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したことでも名高い2018年の注目の映画の一つである。烏魯木斉の片隅に或る「十月影剧院」という映画館でこの作品を観た。「万引き家族」。大前提として万引きは間違いなく犯罪行為なのだけど、正義とは何か。正しさとは何か。を問うてくる作品で、リリーフランキー安藤サクラの演技もさることながら子役の二人の演技やキャラクター設定の妙が光っていたし、即物的な魅力を挙げるなら松岡茉優のビキニ姿の谷間だけが大写しになるシーンが数秒あるよ!見てね!といったところだろう。つらつらと「万引き家族」の魅力や感想を書いてもいいのだけれど、僕に求められているのはそっちじゃない気がする。多分、「なぜ僕が中国の果ての映画館でこの作品を観ることになったのか」だ。また、こんなことを言われそうだ。おい、観光もせず、海外っぽいこともせず、何してんだよ、よくそんなんで烏魯木斉にまつわる生意気な雑文投稿してんな、と。あぁ。お前の言い分は分かる。充分に分かるから、俺に言い訳をさせてくれ。

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ブログのタイトルを冠した街にまつわる幾つかのメモ書き(ウルムチ・前編)

  ここにご覧いただく文章は、ウルムチにまつわる小賢しい思考の断片と、それを全く裏付けないウルムチでの自堕落で無意義な生活の表象である。この文章は、日々記事を書こうと考えていたことを書き留めたメモに当たる前編と実際の行動に当たる後編に分かれている。ウルムチについての何か有益な情報を求める皆様の為に前もって断っておくと、これはウルムチにいた私についてのブログであって、ウルムチに関するブログではない。彼の都市名をブログに冠しつつもこのように無益な内容となっていることはご容赦願いたい。 

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