【北京】世界一周初日のはなし

 〈更新久しぶりになってしまいました。リアルタイムでは中国を抜けてタジキスタンに来ています!〉

 

  ドタバタで京都を出て、気が付いたら日本も出ていた。羽田発北京行の機内。機内サービスのお茶を啜る。機内サービスにはビールやワインなどのアルコールもあるが今回は我慢だ。京都を出る前日に開いてくれた送別会でしこたま飲んで記憶を失くしたことは関係がない。吐いていたらしく洗濯機が回っていたが記憶がないことも関係がない。そんなこともあって京都を出るのがドタバタになったことは否めないが、目下最大の問題はこの飛行機が三時間遅れで運航しているということだ。

 

 言い換えると、深夜の北京空港にバックパックと自転車、計32キロの荷物と共に放り出されてしまうのだ。この危機においそれとアルコールを飲むことは出来ない訳というだ。とはいえ、銀翼の上では如何ともしようがないので、ただただ茶を啜っている。やることがないからだろうか。京都からここに至るまで、いや、世界一周を計画してからここに至るまで、あまりにもあっという間だったので感傷に浸る暇が無かったのだが、ここにきて不安や期待、寂しさや楽しさなど様々な思いが往来し得も言われぬ感情が押し寄せる。至極当たり前だが、ここから8か月間日本に帰ってくることはなく、知らない土地をうろつきまわるのだ。そうやって感情のやり場に困って映画「リメンバーミー」を観たのだが、逆に泣きそうになってしまった。なんやあれ。あのラストは反則やろ。涙に滲む眼下には街灯が伝える長方形の巨大な街区がひたすらに広がる。もうすぐ北京らしい。こうして旅が始まるのだ。

 

 北京首都国际机场に到着したのは現地時間で23時ごろだった。巨大で清潔な空港。何かこの国の威信のようなものを感じずにはいられない。イミグレ―ションの前に指紋登録を行うのだが、正直、去年ハワイで行ったそれよりも高性能な機械だった。最早、この国を途上国とみるむきは誤りである。空港のwi-fiを拾い何とか空港近くのホテルを予約。そして、計32キロの荷物をカートに乗せて税関を抜けるとそこは中国である。

 

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 予約した东海康得思酒店は所謂、高級ホテルだった。なにしろ一泊798元(1万2000円)した。ふかふかの絨毯を踏みしめて部屋へと向かい、部屋の前に着く。なんて大きな扉なんだろうと思った。扉を開けてカードキーを差し、照明をつける。一人には十分すぎるほど大きなベッドに学生には不釣り合いなほど綺麗な部屋。さすが798元なだけある。クイーンサイズのベットが2つに、一畳ほどある大きな机。そして、全面ガラス張りの窓の傍には二人掛けのソファー。すごく不躾な話だが、AVの撮影できそうやなと思った。このソファーでインタビューシーンを撮って、ベットシーンも趣向を凝らした机でのシーンも撮影できる。きっとデビュー作だろう、といった感じだ。と思ってしまった。

 

 とりあえずヒップホップを垂れ流しながら荷物を整理して、各所に到着の連絡を送ってからシャワーを浴びに行く。当然ながらバスルームも広い。なんと、シャワールームとは別にバスタブまである。折角だからお風呂に浸かろうと思って、バスタブにお湯を貯めてからシャワーを浴びることにした。ただ、このバスタブ、ポジショニングがおかしい。まるで若かりし頃の長友佑都である。バスタブ選手、センターバックのシャワールーム選手との連携を疎かにして前線に上がりすぎているというか、離れすぎている。シャワールームからバスタブまで3,4歩も歩かなくてはいけないのだ。シャワールームとバス友佑都の両選手の間がビチャビチャになってしまうのは間違いない。仕方ないから僕は爪先立ちでそそくさと移動することを余儀なくされた。

 

  お風呂からあがって、バスローブに包まれながら歯を磨く。バスローブを着て歯を磨く僕の姿はもはやAVに出演するそれだったし、長友とセンターバックの間は結局、ビチャビチャになってしまった。グランドコンディションは悪い。滑らないように気を付けながらバスルームを出ようとすると、バスルームのドアの前にボタンが一つ付いていることに気づいた。照明はもう全部ついているし、空調の調節は別の場所に発見済みだ。なんだろうとおもってボタンを押す。すると、小さなモーター音と共に、今まで壁だと思っていたバスタブの前の壁が引きあがって行き、ガラス窓が現れ始める。壁だと思っていたところはフェードだったのだ。そして、ガラス窓の向こうにはベッドと机とソファー、部屋が窺えるではないか!逆に言うと部屋からバスタブが丸見えだ。マジで思った。「AV撮れるやん。」と。ベッドの上からバスタブで恥じらう女優の姿をカメラに収めるのだろう。長友は訳もなくそこにいたのではなかった。ガラス窓の向こう側にいるアモーレをマークしていたのだ。そんな部屋で世界一周の初日は眠りにつくのであった。

 

  いや、正確に言うと中々寝付けなかった。でも別に旅の高揚感とかいつもと違う枕だからとかそういうのじゃない。寝ようと思って音楽を消すと隣の部屋の声が聞こえてくるのだ。これじゃあAVの撮影はできないなと思った。隣の部屋の音がマイクに入り込んでしまうかもしれない。そんな中で、その声は最初は小さかったが徐々に声が大きくなっていく。どうやら女性らしいが、なんというか言葉にならない声を発している。というか、尾崎豊風に言えば「軋むベッドの上でやさしさ持ち寄る」時の声を発している。端的に言えば喘ぎ声だ。なんやそれ、AVやん。丸見えの浴室とうっすら聞こえる隣室の声。これだとデビュー作じゃなくて、人妻二人組ナンパ企画だな、と思った。「隣の部屋の奥さん、もう、、、」的な。世界一周最初の夜に素面でこんなこと考えてる自分が嫌になった。

 

 

 

はいこんな感じで世界一周していきまーす。