超個人的2018年の10曲

 2018年は邦楽を聴き続けた年でした。spotifyの有料会員になったというのが一番の要因です。でも、旅行をしていて時間が出来た、日本が恋しくなった、というのも大きい気がします。旅の多くを占める移動の間、僕はたいていラジオか音楽を聴いていました。電車でもバスでも飛行機でもずっと聴いていました。

 

聴いていくうちに、この曲はすごいなぁみたいなのがなんとなく分かってくるようになりました。「映画は観ていくうちに観かただとかその良し悪しが分かってくる」一年間に数百本の映画を観た友人がそんな事を言っていましたが、今ならこの言葉の意味が理解できる気がします。楽曲のすごさみたいなのがぼんやりと分かってきたところで、好きだな、すごいな、と思った曲を紹介します。これは僕の忘備録であると同時にオススメなので、音楽素人の選曲ですがもしよかったら聴いてみてください。

 

1.星野源『アイデア

ほんとは星野源だけで10曲埋めてもいいぐらいなんですけど、その中でも度肝を抜かれたのが『アイデア』です。朝ドラの主題歌として半年間聴かされてきて、ようやくMV解禁されたのは9月。僕はちょうどその時、自転車漕いでおりまして。タジキスタンを脱出して1週間ぶりのWi-Fi環境で真っ先にMVを見ました。もうその日は一日中見てました。一曲でアルバム一枚聴いたような情報量と充実感です。いわゆる星野源サウンドの一番とトラックメイカー、STUTSのMPCによる大胆なアレンジの二番、そして、弾き語り。楽曲もMVも自身の過去作へのオマージュに満ち、挙句の果てにMVのダンスは三浦大知振り付け。まさしく『アイデア』は星野源の集大成に他なりません。こんな傑作の次はどうなるんだろうと思っていたら、『pop virus』とかいう素晴らしいアルバムを仕上げてきて、もはや彼には恐怖すら覚えます。

 

 

2.tofubeats『RIVER』

友人に映画『寝ても覚めても』を激推しされたので見にいったんですけど、エンディングでこの曲が流れてきて震えました。彼がこんなに繊細で儚い音楽を作れるとは。生音っぽいピアノのイントロから滔々と続いていくサウンドtofubeatsのトラックメイカーとしての才能を感じるし、歌詞が良いです。「ふたりの愛は流れる川のようだ とぎれることないけどつかめない」ここなんか映画の内容ともマッチしていて、ロマンチックで綺麗な日本語だとも思います。tofubeatsは結構ロマンチストなんだろうな。でも、それ以上に僕は彼の声が好きなんです。説得力のある優しい声をしています。tofubeatsのシングルは客演呼ぶことも多いけれど、個人的にはもっと本人に歌って欲しいです。

 

 

3.Creepy nuts『よふかしのうた』

移動中はたいていラジオか音楽を聴いていた2018年でしたが、彼らのラジオを聴くことが一番多かったんじゃないかな。まるでお笑い芸人のような彼らの軽妙なトークがおもしろくて聴き続けていました。でも同時に、彼らのラジオを聴くことでヒップホップや日本語ラップへの造詣が深まった気がします。ラップの世界って面白いと思えるようになりました。『よふかしのうた』はそんな彼らがオードリーのオールナイトニッポンツアーのために書き下ろした曲です。問答無用でカッコいいのは置いておいて、R指定のラップ技術の高さを思い知らされます。ラップに詳しくなくても韻を踏んでいくの気持ちよさが分かる曲です。ちなみに彼らの楽曲はロックっぽいと言われることが多いですが、メジャーシーンで闘うことから逃げないcreepy nutsは最高にヒップホップです。

 

4.長谷川白紙『草木』

まだ20歳の現役音大生のアーティストらしいです。去年か一昨年にSoundCloudに上がってた音源を発見して気になってツイッターをフォローしてみたら、すごいツイ廃だったのでミュートしたという何とも言えない思い出があります。あんだけ色々な要素を詰め込んで、複雑な構成をまとめ上げる力はすごいの一言。多分、ボカロに影響されてると思いますね。聴き終わったら脳汁ドバドバ出てるはず。なにも言わずにとりあえず聴いてみてほしい一曲。

 

 

5.STU48『暗闇』

瀬戸内地方を中心に活動するアイドルグループのファーストシングル。ジャケットには明朝体で大きく「暗闇」。アイドルの実質デビュー曲に「暗闇」と名付けちゃうところがもう秋元康。新潟の姉妹グループ、NGT48の『Maxとき315号』もそうだけど、地方に住む若者の葛藤やルサンチマン、肯定感みたいなものが描き方がとんでもなく美しいです。それでいて、瀬戸内地方をベースにするSTUにしか表現できない歌詞にそのメッセージを載せてきます。山陽線の車窓から見える茜に霞む瀬戸内海がとんでもなく綺麗でため息つきたくなる事があるんですけど、その時の美しさがこの曲にはあります。秋元康にこーゆー地方の空気感というか機微を描かせたら右に出るものはいないんじゃなかろうか。

 

6.くるり『ソングライン』

音楽に詳しくはないけれど、中学生の頃から「くるり」が好きでした。京都の大学へ通う事になったのはくるりの影響かもしれません。そんなくるりのニューアルバムのタイトルソングだからちょっと贔屓目が入っているかもしれません。許してください。岸田繫の作る音楽はロックから交響曲まで目まぐるしく変わっていきます。このアルバムは「くるりらしい」と形容されるようなアルバムで、変化し続けた彼の音楽が一回りした印象もあるけれど、やっぱりそこは岸田繫らしくてサウンド面の色んな仕掛けがあります。曲の中に広島カープの応援の音とかいれちゃうんですよ!それでいて彼の歌声は相変わらず、からだの中ににふっと染み渡って馴染んでいきます。楽曲として「くるりらしさ」を感じるし、その遊び心にも「くるりらしさ」を感じる心地の良い曲です。

 

 

7.きのこ帝国『夢見る頃を過ぎても』

ニューアルバム『タイム・ラプス』の最後の一曲。きのこ帝国、とりわけボーカルの佐藤の作る音楽は変わってきました。それは彼女自身の変化でもあると思います。初期の曲は自傷行為を見せつけられてるような生々しさがあったけれど、『猫とアレルギー』ぐらいから変わってきて、このアルバムでは歌詞も声も優しくなった気がします。こちらに寄り添ってくれるようになりました。特にこの曲ではその変化をも肯定していこうとするポジティブさがあるように思います。そのポジティブさはアルバムの最後を大団円として飾り立てて、「きのこ帝国を聴いてきて良かったな。」「このアルバムを聴いて良かったな。」僕をそういう気持ちにさせました。あと、くるりもそうだけど、このご時世にこんなに店舗の遅いロックを聴かせている力はすごいです。

 

 

8.シン&ふうか『体の芯からまだ燃えているんだ』

吉岡里帆阿部サダヲによる映画『音量を上げろタコ!以下略』の主題歌。阿部サダヲ歌ウマッ、吉岡里帆カッコいい。作詞・作曲はあいみょんです。あいみょんは今年一番跳ねたアーティストで間違いないでしょう。冴えない男子の心情を描かせたら秋元康にも劣らない才能があるし、世間を嘲笑うかのような激烈で斜に構えた歌詞を書くあいみょん。そんなあいみょんがロックのど真ん中に投げ込んできたのは典型的なロックバンドの楽器構成で王道のロック調の曲、そして「言葉は死なない 歌い続けるさ ロックンロールに終わりはない」という歌詞。剛速球160kmのストレート。マジかっけぇー!かったので、やっぱりあいみょんはすごいと言わざるを得ません。君はロックを聴かなくても、僕はあいみょんを死ぬまで聴きます。

 

 

9.中村佳穂『GUM』

2年前ぐらいに彼女のライブ動画をYouTubeで見たんですけど、正直、古民家カフェで弾き語りライブやってる良くいるタイプのシンガーソングライターの一人だと思って、それ以降は全くチェックしていませんでした。で、色んな人が今回のアルバム『AINOU』を絶賛してるのを読んで、訝しがりながら聞いてみたらまぁヤバかったですね。お前こんなビート作れるのかよって。お前このビートにそんな声乗せられるのかよって。Tofubeatsがどうやったらこんなの作れるんだよってツイートしてましたが、ホントその通りです。この曲はアルバムの二曲目なんですが、一曲で衝撃を受けたままこの曲に突入して感動すら覚えました。アルバムは彼女の幅の広さを存分に見せつけるものとなっていますが、正直、最初の二曲は予想外の衝撃でした。クラブミュージックっぽくて、クラブミュージックじゃない不思議な気持ちよさにずっと縦揺れしていたくなります。

 

10.折坂悠太『さびしさ』

アルバム『平成』の中の一曲。個人的には一番日本を思い出させる曲です。平成の終わりに平成というアルバムをつけるこいつは肝が座ってますよ。そして、センスの塊みたいな人間だと思います。そして、声もいい。中村佳穂にも共通するのだけれど、曲調や言葉選びに民俗的なもの日本的なものを感じます。かといってカントリーやフォークには寄らないでどこか無国籍風に市井の事を、日々の事を軽やかに歌い上げます。そして、必要最低限の音の数に多くの想いや背景を乗せるのが上手い。個人的には彼の音楽は昼間バスに乗ってる時によく聴いていて、今旅をしているこの場所にも誰かの生活や日常があるということを気づかせてくれました。

 

 

さいごに

お気付きの方もいると思いますが、ここで紹介したのは全て邦楽です。僕が比較的に邦楽をよく聴いていたということはあります。しかし、僕が洋楽(日本以外の音楽)を語る言語をもたないというのがその大きな理由です。僕はまだJpopの文脈の中でしか音楽を理解できない気がします。jpopの文脈という観点で考えるとダンスミュージックとJpopの距離感というのが今年の個人的な音楽のテーマだったと思います。星野源はダンスミュージック(特にR&B)とJpopの融合を「イエローミュージック」という言葉で表現し、それに挑戦しています。彼は今年、メジャーシーンにMPCを導入しました。メジャーシーンにおいて今年はその傾向が顕著になるのではないでしょうか。よりトラックメイカーという人々が存在感を増す一年になる気がします。そして、jpopを聴いていくうちにJpopの多くがロックから語られることが多いということが分かってきました。ということで2019年はあまり食指を伸ばしていなかったロックも積極的に聴いていこうと思いました。

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