【タジキスタン】世界の屋根と自転車素人#06「横浜センセイがいた」


(前回↑の続き)

 

 直らなかった自転車を引きずりながら宿に帰って(結局、修理代は払わなかった)、なんだかんだしているとあっという間に日が暮れた。この宿では夜の二時間だけwi-fiが使える。僕らはそれを求めて、ビール片手に屋外の縁側のようなところで寝ころんでいた(ちなみにこの縁側のようなところでも寝袋を敷いて宿泊することができる。こちらは室内より少し安い。)。ただ、wifiが使えるからと言っても動画を見られる程の回線状況でもなくて、地図を見たりネットから情報収集するぐらいなのでするべきことも多くない。次第にスマホを触る時間と会話をする時間が逆転していった。

 

海老名クンと今後の予定やら、高校時代の話やら、なんてことのない喋りをしていると

「こんばんは!」

話しかけられた。60代ぐらいの男性だった。

「こんばんは!日本人ですか?」

そう。と男は頷く。こんな辺境の宿にも日本人はいるもんなんだ。ツレがいる感じでもないところを見ると、どうやら一人旅らしい。初老の男性が一人旅でパミール。間違いない、この人は変人もしくは変態だ。(人のことを言えないが)

 

旅先での日本人との出会いは心強くて嬉しいのだが、並行して不安という感情もよぎる。というのも、海外で出会う日本人というのはメンドクサイ人が多い傾向にあるのだ。取るに足らない旅の武勇伝を話し続ける人。何かにつけてアドバイスをしてくる人。いろいろ行動を共にしてこようとしてくる人。やたらと現地の風俗に詳しい人。。。日本ではそんな人と絡まなくても問題ないのだが、旅先という特殊な状況なだけに接点が生まれてしまう。若干、コレ、心がシンドクなる。この人と喋るために異国の地に来たのか、と。そして、出会った人がそのメンドクサイ人なのかどうか不安になってしまうのだ。

 

で、このおじさんはメンドクサイ人なのか。

 

「今日、ムルガブ方面から車に無理やり乗せてもらってさぁ~、君たちみたいに若くないから大変だったよ~。で、乗ってた車がほかの車と正面衝突しちゃって、ホラ、腕、怪我しちゃったんだよ~、」

「え!それ大丈夫なんですか??」

「まぁ~大丈夫なんだけどさぁ~。で、昨日は……」

 

うーん、このおじさんは「取るに足らない旅の武勇伝を話し続ける」タイプかぁ……

(はやく話切り上げたいなぁ……)

見ると、海老名クンもそんな顔をしている。ただ、海老名クンはコミュニケーション能力が高い。この会話のハンドリングは彼に任せよう。そう思い、僕は少しだけ後ろに下がっておじさんとの間に距離を作った。すると海老名クンがおじさんに話を振った。

 

「一人で旅されてるんですか?なんでまたタジキスタンなんかに?」

「あ、僕はタジキスタンに住んでるんだ。」

 

・・・・は?タジキスタンに住んでいる?なんやそれ、滅茶苦茶おもろいやんけ。数年前の統計では在タジキスタン邦人は37人しかいなかった。このおじさんはそのうちの一人なんか。37分の一人なんか。僕は身を乗り出した。

 

聞いたところによると、日本で高校教師をしていたこのおじさんは退職後、タジキスタンの大学で日本語を教えているらしく、夏季休暇を利用してパミールを旅行しているのだという。老後を投げうってアジア最貧国での一人暮らし。メンドクサイ人ではなくマジでスゴイ人だった。(もしかしたらメンドクサイ人でもあるのかもしれない。)このおじさんは僕らも良く知っている横浜の名門高校で長らく英語教師をしていた。「横浜センセイ」と呼ぶことにしよう。

 

そして、彼と話し込むこととなる。

この国の事情、日本の教育に精通した横浜センセイの話は面白かった。

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ホログでの昼食

(続く)